旅とそこに住むこと

若いうちに旅をするのは素敵なことだ。かくいうわたしも20代のころはバックパック一つで世界を回った。

我々の年代は沢木耕太郎の「深夜特急」が大学の講義なんかより人生を教えてくれるテキストだったし本屋に行けば平積みになっている青年たちの必読書でもあった。大学に年間80万も払うぐらいなら、沢木の文庫340円(当時)で買って旅にでたほうがよっぽど実りある人生の時間を過ごすことができた。

ご多聞にもれず、アジア、東欧、中欧、そしてフランス、スペイン、イタリア、ドイツ、スイス、そしてDover海峡をわたってイギリスへーー

小学校5年生の時にみた「アニメ三銃士」がわたしの原点でもあるから、あのときダルタニャンがみたドーバーの白い崖を、どうしてもわたしはフランス側から「見なければ」ならなかった。

旅はいい。日常を忘れさせてくれる。しかし沢木の本でもっとも印象に残っているのは「老いて旅をするのは得策ではない」ということ。若いうちに思い切り世界を見たら、あとは一つ所に腰を落ち着けて深く黙せよ、ということだ。

30代になってその言葉がじわじわと自分の心身を侵食し始める。

そしてわたしはここにいる。フランスのバリでひとり生きることを決めて早7年。

確かに旅をすることと住むことは雲泥の差がある。ただただ毎日を、溺れないように、必死でもがいてきたら7年があっという間に過ぎていた。バカンス大国に暮らしながら、旅行なんかする暇はなかった。

何年暮らしたって「わかる」ことなんか一つもないだろう。それは日本にいたって同じだ。だったら、人生の後半、生きる場所、暮らす場所、そして死んでいく場所ぐらい、自分で責任を持って決めてみたっていいじゃないか。

徹底的に孤独と向き合うこと。体験ではなくそれを経験にまで昇華すること。

それを成し遂げる為、わたしが歴史の重み感じる欧州に惹かれたのも当然のことだった。